熟練者の経験知をもとに切削工具の欠け・摩耗・寿命を 推定するAIを開発
モリマシナリー株式会社
国立大学法人岡山大学
株式会社両備システムズ
サポイン事業で切削工具管理システム「AIツールソムリエ」に実装
モリマシナリー株式会社(本社:岡⼭県⾚磐市、代表取締役 森 郁夫、以下 モリマシナリー)は、国立大学法人岡山大学(本部:岡山県岡山市、学長 那須 保友、以下 岡山大学)、株式会社両備システムズ(本社:岡山県岡山市、代表取締役社長 松田 敏之、以下 両備システムズ)と共同で、戦略的基盤技術高度化支援事業(以下 サポイン事業〔※1〕)に採択された「熟練者の経験知からスマート工場化を実現する切削工具管理システム「AIツールソムリエ」の開発を進めてきました。
令和5(2023)年2月で約3年間のサポイン事業期間が終了し、経済産業省中小企業庁へ開発成果を報告しましたのでお知らせいたします。
今後もモリマシナリーは岡山大学、両備システムズなどと連携し、「AIツールソムリエ」の事業化を目指してまいります。
(※1)令和4(2022)年度より、旧戦略的基盤技術高度化支援事業(サポイン事業)及び旧商業・サービス競争力強化連携支援事業(サビサポ事業)が統合され、成長型中小企業等研究開発支援事業(Go-Tech事業)となっています。
サポイン事業におけるAIツールソムリエ開発について
(1)背景
工具を自動で交換し段取り替えを省くマシニングセンター(以下、MC)内にあり、工具を自動搬送する工具マガジン(切削工具収納庫)を製造するモリマシナリーは、国内トップクラス(約1万台以上)の実績をもち、平成30(2018)年より、切削工具の摩耗状態を可視化し、適切に管理するシステム「ツールソムリエ」を開発・販売してきました。
しかし、摩耗状態可視化のためには工具ごとに撮影箇所の設定が必要となることや、多くの工具の中から最適な工具を選択し、摩耗状態を見て使用可否を判断する熟練者が減少しているといった課題がありました。
そこでツールソムリエをベースに、これまで熟練者に依存していた工具の欠け・摩耗・寿命をAIで判断することを目的とし、工場の生産性向上を支援する「AIツールソムリエ」の研究開発を行いました。この研究開発は令和2(2020)年度のサポイン事業(事業期間:2020年8月~2023年2月)に採択され、AIを用いた研究開発等を行っている岡山大学・両備システムズと共同で実施しました。
<日本のものづくり現場の課題>
「AIツールソムリエ」開発によって、以下の日本のものづくり現場における課題の解決に挑戦します。
・多品種小量生産へ
少品種大量から多品種小量生産への流れから、使用する切削工具の数や種類が増えたことで機外(MC外)にて管理する工具も増加しています。
モリマシナリーにおける取扱い工具数の例として、10年前に比べて500本程度、増加しています。
また、モリマシナリーの製品で工具本数を200~300本収納可能な「WINE RACK®(ワインラック)」という名称の大容量工具マガジンがあります。販売台数も増加傾向にあり、10年前から約2.5倍に増加しています。
・熟練者の減少
製造業においては、若年就業者の減少や人材育成・能力開発が進まないといった背景から、熟練者の減少が深刻な問題となっています。切削工具の管理において、必要な工具を迅速かつ確実に段取替えするには、高度な技能が必要であり、誤った工具選択による品質不良や、まだ使用可能な工具の廃棄(生産コスト増加)が課題となっています。
製造業における若年就業者(34歳以下)の推移と、高齢就業者数(65歳以上)の推移
引用元:経済産業省「2022年版ものづくり白書」(第4章人材確保・育成 第一節ものづくり人材の雇用と就業動向等について)
https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2022/pdf/honbun_1_4_1.pdf
ものづくり企業の経営課題(企業規模別)
引用元:経済産業省「2020年版ものづくり白書」(第2章 ものづくり人材の確保と育成)
https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2020/honbun_html/honbun/102011_2.html
(2)概要
サポイン事業の概要は以下の通りです。
・計画名
「熟練者の経験知からスマート工場化を実現する切削工具管理システム(AIツールソムリエ)の開発」
・事業期間
令和2(2020)年8月~令和5(2023)年2月
・推進体制と役割
研究実施者: モリマシナリー
(役割:プロジェクトリーダー、ツールソムリエシステムの開発、工具摩耗・欠け検出の研究)
岡山大学 学術研究院 環境生命自然科学学域 (児玉研究室)
(役割:工具劣化メカニズム研究)
岡山大学 学術研究院 環境生命自然科学学域 (高橋研究室)
(役割:分散学習による工場連携の研究)
株式会社両備システムズ
(役割:工具劣化画像処理の研究)
アドバイザー:芝浦機械株式会社
岡山県工業技術センター
事業管理機関:公益財団法人岡山県産業振興財団
・推進内容
AIツールソムリエ開発において、以下を推進しました。
1.多品種・少量データにおいても工具の欠け・摩耗を高精度に判定する「AI方式の高度化」
1-1.欠陥検出(両備システムズ)
サイズ・形状が異なる工具摩耗、欠けレベルの高精度検出方式開発
1-2.分散学習(岡山大学 高橋研究室)
少量工具データを工場間連携によりビックデータ化する分散学習方式
2.多種多様な工具においても熟練者判断を実現する「最適工具選定システムの開発」
2-1.データベース構築(岡山大学 児玉研究室)
熟練者同等の加工性能劣化状態判断に向けた工具摩耗メカニズムの解析
2-2.摩耗予測(岡山大学 児玉研究室)
持続可能なものづくりを実現するデータマイニング方式
3.熟練者ノウハウを伝承する「AIツールソムリエ実証機開発」
3-1.撮像システム(モリマシナリー)
工具の欠け・摩耗を高精度に可視化する撮像システムの構築
3-2.統合実証機(モリマシナリー)
最適工具選定システムとAIツールソムリエ実証機の融合
(3) 成果
各推進内容について開発・実証実験を行い、AIツールソムリエの実証機を完成させました。
主な成果は以下の通りです。
1.多品種・少量データにおいても工具摩耗を高精度に判定する「AI方式の高度化」
欠陥検出において、目標値であった正答率85%以上を達成しました。
また分散学習において、従来手法より高速(1/8)に学習できる手法を確立しました。
2.多種多様な工具においても熟練者判断を実現する「最適工具選定システムの開発」
摩耗予測において、目標値であった正答率70%以上を達成しました。
3.熟練者ノウハウを伝承する「AIツールソムリエ実証機開発」
工具の欠け・摩耗を高精度に可視化する撮像システム(TOOL COLLAGE® ツールコラージュ)を完成させました。また最適工具選定システムとAIツールソムリエ実証機の融合に向けて、本体となる実証機を完成させました。
AIツールソムリエ実証機
AIによる欠陥検出
今後の展望について
今後も引き続き課題整理や精度向上を行い、製品化・事業化を目指して取り組んでまいります。
<事業化 目標売上>
モリマシナリーによる、AIツールソムリエの目標売上金額は以下の通りです。
・令和6(2024)年度 :1億円
・令和9(2027)年度 :18億円
ツールソムリエ(TOOL SOMMELIERⓇ)について
モリマシナリーが令和元(2019)年から提供している、工場内の切削工具管理の効率化を図るためのマシニングツールマネジメントマシンです。
200本を超える切削工具の収納が可能で、工具の種類やサイズをはじめ、摩耗などのコンディションにいたるまでを自動で測定してデータ管理します。工具の数が多すぎて管理しきれないなど、工具管理に伴う問題点の数々を一括管理で解決します。
ツールソムリエ製品ページ:https://tool-sommelier.jp/#!page1
国立大学法人岡山大学 研究者について
・学術研究院 環境生命自然科学学域 高橋研究室(情報数理工学研究室):高橋 規一 教授
機械学習分野に現れる様々な最適化問題の効率的解法、マルチエージェントシステムによる分散計算法、ネットワーク科学に関する研究を行っています。
・学術研究院 環境生命自然科学学域 児玉研究室(機械加工学研究室):児玉 紘幸 講師
データマイニング技術を応用した切削条件決定支援システムの構築に関する研究を行っています。工具カタログや実験で得られたデータ群に対して、最新の統計解析手法であるデータマイニングを適用することにより、技術者のモノづくり支援を行うことを目指しています。
岡山大学ホームページ:https://www.okayama-u.ac.jp/index.html
モリマシナリー株式会社 会社概要
社名 :モリマシナリー株式会社
本社所在地 :岡⼭県⾚磐市仁堀東1383
代表者 :代表取締役 森 郁夫
設立 :1953年4月
資本金 :2千万円
事業内容 :冷間ロール成形機・造管機、形鋼・パイプ成形用ロール金型、⼯作機械⽤ATC(⾃動⼯具交換装置)、錠剤製造⽤打錠機、打錠⽤⾦型杵臼、ペレット製造用金型リングダイ、⾃動⾞⽤部品等の開発・設計・製造・販売
コーポレートサイト:https://mori-machinery.com/
株式会社両備システムズ 会社概要
社名 :株式会社両備システムズ
本社所在地 :岡山県岡山市北区下石井二丁目10-12 杜の街グレースオフィススクエア4階
代表者 :代表取締役社長 松田 敏之
設立 :1969年12月
資本金 :3億円
事業内容 :公共、医療、社会保障分野および民間企業向け情報サービスの提供
(システム構築、アウトソーシング事業)、ソフトウェア開発、
データセンター事業、ネットワーク構築サービス、セキュリティ事業、
ハードウェア販売および保守サービス、AI・IoTなど先端技術研究開発
コーポレートサイト:https://www.ryobi.co.jp/
このページに関するお問い合わせ
株式会社両備システムズ 広報部
電話:086-264-1311