Vol.02待遇八犬伝

むかしむかし(略)
「お腰につけた、きび団子。ひとつ私にくださいな」
「そろそろ、決めようじゃないか」
「これから鬼島大学の説明会に、ついてくるならあげましょう」
「え。それ釣り合わない。団子ひとつで鬼島大学へ?」犬はとつぜん、ぞんざいな態度を取りはじめました。「搾取じゃありませんか」
人事太郎は、あきれ返って大きなため息をつきました。
「これだから犬は。いいかい。たしかに目の前の団子だけなら、対価としてはちっぽけだろう。けれど、想像するがいい。首尾よく鬼を採用できたなら、いったい何が起こるのか」
犬は舌を出してハアハアしてみましたが、何も浮かびませんでした。人事太郎はにやりとしました。
「鬼島大学には、村から奪った特許や有価証券がたんまりある」
「なるほど。それをネコババするという」
「いやいや。しかし1割ほどは。
じゃあ、さらに想像を広げてみよう。みんなを困らせている鬼を根こそぎ採用したら、われわれの社会的な地位は爆上げとなる。するとどうだ。あわよくばメディアから声がかかる。といっても話題性で引っ張り出されるだけだから、高査定期間はしょせん短い。それでも、インセンティブだのなんだので当分食うには困らない」
「おお」
犬はちぎれんばかりに尻尾を振りました。

「なっ。こういう広い視野で物事を考えなければならないのだよ。会社選びだって同じだぞ。そりゃ初任給は大事だけど、地域活性とか、グローバルとか、いろいろあるわけだからね。パッと見、わけのわからない会社でも、じつは自治体や官公庁向けのICTソリューションでブイブイ言わせてることだってあるんだから」
「ウィンウィン。」犬は人事太郎にひざまずきました。
「じゃあ、内定承諾ということで」
「やっぱちょっと待って」
犬はごね出しました。
「だってなー。ちょっとやっぱりリスクでかいよなー。なんかなー。もうちょっと色つけてほしいなー。確かな未来が見たいなー。よそとも比べてみないとなー」

そう。これが、昔から伝わる売り手市場待遇八犬伝です。信じるか信じないかはあなた次第です。