Vol.08あかんずきん

野原を歩いていた学生が、罠にかかったOBを見つけました。
「かわいそうに。助けてあげましょう」
解放されたOBは小躍りして喜ぶと、ボロボロの頭巾を学生に差し出しました。
「これは、動物の言葉がわかるようになる不思議な頭巾。お礼にどうぞ」
「きったねえ頭巾」
リクルートスーツにまるで似合わないそれを、学生はとりあえずかぶってみました。すると……
「マジだ!」
電線に止まったスズメに、ブロック塀の野良猫、土の中のミミズまで。動物たちの会話が、まるで人間が話しているようにはっきりわかるではありませんか。
これは何かに使えそうだ」とはいえ何に使えるかパッと思いつかなかった学生は、しばらく頭巾をかぶりっぱなしにすることにしました。

その翌日。学生は、第一志望の企業の役員面接に出かけました。
面接とはいうものの、ここまで来たなら内定同然。そう告げられていた学生は意気揚々。入社したらこの道で通勤するのかあ、などと胸をはずませながら、足取り軽く進みます。
「あの会社、ゆうべも遅くまで明かりついてたよな」
ふと、そんな言葉が飛び込んできました。見回すと、数羽のハトが地面を突ついています。学生は首を傾げました。ハトたちのいう「あの会社」とは、まさに第一志望のあそこ。
「ワークライフバランスに力を入れているはずなのに、深夜残業?」
思わず立ちすくんだ学生の足元を、ネズミが駆け抜けました。
「こないだ居酒屋で、めっちゃケンカしてたぜ。あの会社の社員」
「アットホームな社風じゃないのか……?」
ネズミのあとからカサカサ走ってきたのは、ゴキブリです。
「あそこの給湯室、あったかいよね」
「ゴキブリいるのかよ……」
さっきまでの元気はどこへやら。すっかりモチベーションの下がった学生は、役員面接で「あ、ゴリラがしゃべってる」などと口走ってしまい、その場でお祈りを食らうことに。

どんなホワイト企業でも、たとえば決算前には残業だってする。
風通しがいいからこそ遠慮なくケンカするし、ゴキブリもたまに出る。
噂や評判に翻弄されるのは考えもの。企業だって、人間だもの。